〜種をまくと芽が出るのが 不思議でたまらない〜
2024年 出津農楽舎のリーフレットが完成しました。
その中から・・・
ここは、長崎県長崎市外海(そとめ)の出津(しつ)集落。世界文化遺産【長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産】構成要素の一つ。九州西端に位置し、長崎市中心部から北西に40キロ。五島列島を望む海に面しており、はるか水平線には美くしい夕陽が沈む。
ここに2022年、かんころ餅専門店「出津農楽舎」がオープンしました。かんころ餅作りとカフェを切り盛りする、出津出身の杉山和利さんと千晶さんご夫妻にお話を伺いました。
(杉山和利さん、以下K)
「地元の人は、ここを出津の谷(しつんたに)って呼んでいるんですよ。その名の通りこの集落は、大きな谷になっていて、田んぼが少なく昔からお米があまり取れなかったんですよ。」
出津の土地は、急斜面に結晶片岩の石垣を築いた段々畑ばかり。昔から、米は満足には作れず、サツマイモと麦飯が主食だったそうです。
サツマイモを保存のために湯がいて天日干ししたものが「かんころ」です。昔の人は、正月用の餅の量(かさ)を増すために、「かんころ」を少しの餅米と蒸し、かんころ餅として食べていました。
江戸時代、外海の潜伏キリシタンは迫害を逃れるために五島に移り住みました。五島でも、同じようにかんころ餅を作り続けたと言われています。
(K)「昔は、各家庭で作られていたかんころ餅も、高齢化で作り手が減ってねえ。かんころを作る人が少なくなってきているんですよ。
このままでは、畑は荒れるし、かんころ餅もいずれ作れなくなるかもしれない。代々引き継いできた畑を耕作放棄地にしたくない、昔からの暮らしを含めて〈かんころ文化〉を継承していきたい、続けていきたいって思ってねえ。」
(杉山千晶さん、以下C)
「かんころ餅がなくなるかもしれない・・・って和利さんが言われて。最初は何を言っているの?って不思議に思ったんです。でも話を聞くうちに、今の状況がわかってきて、そりゃ深刻だって(笑)。機械や電気に頼らないやり方にも感銘を受けましたねえ。天日干しの棚を作ったり、サツマイモを湯がくためのくど(かまど)を作ったり。サツマイモも餅米も農薬を使わずに厳しい斜面の段々畑で・・・。こりゃあ人生かけようかなって、私も本気になりました。」
出津農楽舎では、かんころ餅の原料であるサツマイモと餅米作りから取り組んでいます。外海が原産地であるシバヤギが畑で雑草をはみ、ヤギのフンはいい肥料になる。心地よい自然の循環です。
(C)「できる限り地元の材料で、農薬を使わずに、体に優しいきび砂糖を使って・・・と追求していると、関心のある方が集まってきてくれたり。二人だけで手が足りず、途方に暮れていると、たくさんの方がボランティアで助けに来てくれたり。また地域の人が集まれば、みんなでやりたいことをワイワイ話す場所にもなっています。
人が集まることで、和利さんの夢である、かんころを作り続けられる社会がここに残っていったらいいなあと思っています。」
(K)「農業は決して楽ではないんですよ。しかし、みんなが集まれば楽しくなる。それが、【農・楽・舎】の名前に込められています。きっとできると思っています。」
淡々と作業を進める和利さんと、丁寧な手捌きで俵型にかたち作る千晶さん。
ひとつひとつ、この土地への愛情を込めて、生産者の想いを込めて作っているのが伝わってきます。
変わらない景色や伝統、暮らしを大切にしながら、新しいことも穏やかに取り込む。かんころ文化を継承するバトンがここにありました。